幼馴染みの期限
「ほら、みんな席に着いて」
パン、パン、と不穏な空気を引き締めるように、崎山先生が手を叩きながら現れた。
「沖田も、もう戻れ」
「はいはい。崎ちゃん先生、後は頼むねー」
こら!と気安い態度を咎める先生に構う事無く、広海は「じゃあな」と言って私の頭をポンポンと撫でた。
「な……っ」
広海に頭を撫でられるなんて、小さい頃でもされた事なんてない。恥ずかしさにぶわりと頬に熱が集まった。
それを見た女子達のキャーとか、イヤーとか、悲鳴のような声があちこちから聞こえて来る中で、広海は顔を真っ赤にした私を見て満足そうな笑みを浮かべると、ひらひらと手を振りながら自分のクラスへと戻って行ってしまった。
その後少し教室が騒がしくなってしまったけれど、崎山先生が一喝するとピタリと収まった。
元々優等生の多い特進クラスは、問題を起こすと進路に直接響く事もあって自分から事を荒立てる生徒は少ない。
そのままHRが始まり、私は何事も無く授業を受ける事ができた。
先生と広海との間で何かしら約束を交わしていたのか、休み時間になると先生達が帰るタイミングを図ったように広海が私の所にやって来て、私がクラスで孤立したり、嫌がらせをされることは無かった。