幼馴染みの期限
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「ねぇ、広海ぃー、モテ期ってさぁ、誰にでも一度は来るんだよねぇ?モテ期来い、来い、来ーい!!」
うりゃー!と叫びながら、壊れた招き猫の様にぶんぶーんと手を振りながら歩く。
ほろ酔いのまま口に出した願いは、白い吐息に変わって夜の闇の中に溶けて消えていった。
才加と駅前で別れた私達は、家に向かっていた。
居酒屋のある駅前商店街を抜けて、少し歩くとゆるやかな登り坂が見えてくる。そこを登ると昔からの住宅地が広がっていて、広海と私の家はその外れの方にある。
「おい、今何時だと思ってんだ。近所迷惑だぞ。手を振るな、呼ぶな、叫ぶな。何か違うもんが来そうで怖ぇよ」
「広海だってうるさいよ?……だいたいさぁ、明日は土曜日じゃん。みーんなまだ起きてるって。余裕でしょ。あー、モテたい!モテまくりたーい!!『あたしぃー、つきあってないけどぉ、なんにも無かった訳じゃないよーぅ』とか言ってみたーい」
「……それって才加の真似か?全然似てねぇな。お前ってほんと酒癖悪い。……ほら、そっちじゃねぇだろ」
めんどくさいヤツだ……とぶつぶつ言いながら、広海は脇道に向かってふらふら歩いて行こうとした私の手を、ぐっと掴んで引き戻す。
バランスを崩した私の身体は、そのまま後ろから抱き締められるように広海の胸にぽすん、と収まった。