幼馴染みの期限

***

ーーそれから


私は、高熱を出して肺炎を起こし、そのまま入院することになってしまった。


抵抗力が弱っていた所に風邪を引いた私の身体は、ひとたまりもなかったらしい。


お母さんには「真冬なのに、コートも着ないで出ていくからよ!」とこっぴどく叱られて、お父さんには呆れられた。


こういう時に真っ先に私をバカにする広海だけが、何も怒らずキツイ言葉を吐く事もなく、毎日お見舞いに来てくれた。


熱にうかされてぼやけた視界の中で、心配そうに私を見つめる広海の顔が見えたような気がするし、頭を撫でられたり…………されたような気もするけれど、その時の記憶は10年経った今でも曖昧だ。


だけど、何度か手を握ってくれた事だけは、はっきりと覚えていた。


辛い夢にうなされて『離れないで』と泣きながら手を伸ばした時だって、『離れないよ』『ここにいるよ』と伝えるようにギュッと握りしめてくれた。


その力強いけれど優しい手の温もりが、暗闇に引きずりこまれそうになる私の弱い心を何度も何度も救ってくれた。



熱が下がっても父と母と広海以外は誰も病室に来ることは無く、メール一通すら来なかった。



美桜からも。



……向井くんからも。


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