幼馴染みの期限
ほら、と広海に促されて立ち上がった瞬間、なぜか今まで声を潜めて話をしていたはずの女の子達の声が私の耳にはっきりと届いて来てしまった。
遠慮の無い、今まで何百万回と囁かれてきたその言葉が、何故か今日はやけに鋭く無防備な背中にグサリと突き刺さる。
『ーー彼女……じゃないよね』
『ーーだよね。似合わないもん』
『ーー付き纏われてるんじゃない?王子かわいそー』
その言葉は確実に私の中の古い傷まで抉り、忘れようとしていた苦い記憶が次々と溢れだして来た。
『広海くんは自分のものだって勘違いしてるでしょ?委員長サン』
『ーーあんたなんて、広海と一緒じゃなきゃなんの価値もないくせに』
……そうだよ。あの子達の言う通り、似合わないし釣り合わないのも分かってる。
何度となく、私は渡瀬樹里としてじゃなくて『広海の幼なじみ』として近づかれたり、利用されたりしていた事も知っていたから。
だから、私は広海の彼女じゃなくて、幼なじみとしてしか隣にいられないのも知っている。
……でもね。私は広海と一緒にいないと価値の無い人間になっちゃうんだよ。
それが嫌だから『幼なじみ』が終わるのがこんなに苦しいのか、それとも他の気持ちがあるからなのか、私にはそれが分からないんだ。
だって生まれてから今まで、広海が隣に居なかった事なんて一度もなかったから。
広海が居なくなってしまったら、自分がどうなってしまうのか、自分自身の事なのに分からない。
嫌だって言って、もがいたって足掻いたってどうしようもないって事だけは分かってる。
もうすぐこの関係が終わる。その事実だけは変わらないから。