幼馴染みの期限
目の前に、湯気を立てたコーヒーが置かれる。
「自己紹介も済んだ事ですし、まだ少し時間もあるから僕と美桜との関係を話しましょうか」と楓さんは時計にちらっと目をやりながら、こう切り出した。
「美桜のおばあさん……つまり、美桜の母親の実家と僕の家は隣同士なんだ。おじいさんは早くに亡くなったらしくて、おばあさんは独りで暮らしていてね、隣の家の僕たちを生まれた時から本当の孫みたいに可愛がってくれたんだ」
「美桜にはお盆やお正月に会うくらいだったから、僕たちにとっては遠くに住んでる親戚の子っていうくらいの認識だった。歳も離れているしね。ただ、そんなに話した事は無かったけど、明るくて元気な子だなって思ってた」
……『僕たち』って事は、楓さんにはきょうだいがいるのかな?
「それが変わったのは美桜がお母さんと一緒に実家に戻って来てから。……家に引っ越しの挨拶に来たのはお母さんだけで、美桜の姿はいつまで経っても見えなかった」
「引っ越しして来たのは2月の半ばで、なんでこんな中途半端な時期に越してきたんだろうって不思議に思ってたし、何より、3月に入っても、4月になって新学期が始まっても、家から出てくる気配すらない美桜を不思議に思ってた」
「ってのは……僕は後になって聞いた話なんだけどね。もう、その頃僕は大学生だったし、こっちに出て来てたから」