幼馴染みの期限

「俺は樹里ちゃんといちばん相性がいいんだよ。さっさと予約しとかないと取られちまうからな」


検温や血圧測定などの朝のバイタルチェックが終わると、私達介護士は入浴介助と機能訓練や趣味活動をする人のサポートと、大体二手に別れて業務にあたる。


源さんのお気に入りの私は、源さんが来る火曜日は機能訓練のチームに入ることが多い。


「じゃあ、始めましょうか」


訓練と言っても何か特別な事をする訳ではない。
ジムのマシンの簡易版のようなものでちょこっと足の筋肉を鍛えたりする程度。

だから私じゃなくたって誰でもいいはずなんだけど……


「ところで樹里ちゃん、最近『恋』の調子はどうだい?」


出た。源さんの最近どうよ?攻撃。


たぶん源さんが私を指名するのは、私のちっとも進展しないお子ちゃまな恋愛話をおじいちゃん目線で楽しむためなんだろうと思っている。


「なかなかうまくいきませんよー。誰かいい男(ヒト)いませんかね?」


まぁ、それを分かってて馬鹿正直に答えてしまう自分もどうかと思うんだけど。


「50年前にイイ男だった奴ならいくらでも紹介できるんだけどねぇ」


「……結構です」


イイ男だった時期をざっと見積もったとしても、確実に70歳は越えている。

はじめて付き合う男が70代なんて絶対にお断りだ。


……下手したらプロポーズよりも先に、今生の別れを経験することにもなりかねない。





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