幼馴染みの期限
「……はい。そうですけど」
正直さっきまで睨み付けられていた人に、ニコニコと話し掛けられるのは怖かった。
「だから、2月と5月で、『ナナツキ』よ。そうでしょ?美桜?『ナナツキ シイ』は、美桜のペンネームだよね?そうだよね!」
梓さんは怯む私と黙る広海には全く目もくれず、「すごーい、よく考えた!美桜」なんて言いながら、今度はニコニコと極上の太陽みたいな笑顔を美桜に向けていた。
……そう言えば、文芸部にいた頃のペンネームは『佐倉彩月』だったっけ。
『サクラ』は美桜の名前の桜をもじって、『サツキ』は5月の皐月とかけてたんだった。
美桜は、そういう言葉遊びみたいなものが好きだった。
ってか、本当にそんな単純な理由なの?
そう思って美桜の方を見ると真っ赤な顔をしていたので、どうやら梓さんの説は正しいんじゃないかと思った。
「まっ、そこまではセンスいいけど、『シイ』はどうかと思うわ」
ピシッと広海を指差しながら、梓さんはニヤリと笑う。
さっきまで向けられていた怒りは露ほども感じられない。
感情を切り替えるのが早い人なんだなと思った。