幼馴染みの期限
そう言って袋の中からワインを取り出そうとした私の手を制して、樺山さんは苦笑した。


「あくまでも気持ちよ、気持ち。受け取ってもらわなきゃ困っちゃうわ」

「それに、付き合って無くてもお祝いくらいはしてもらえるんでしょう?あなた達、幼馴染みなんだから」


『幼馴染み』という言葉に、またズキズキと胸の奥が痛んでいく。


広海の側にいられる期限……幼馴染みの期限を私は知っていたくせに、今までの関係に甘えるだけで、何もしようとはしなかったし、それを変えようともしなかった。


だけど、私は幼馴染みという権利をもう手放してしまった。


今日だって……そして、これからの約束事なんて何一つ交わさないままで。


だから、広海がここ(デイ)を離れる事も、私の側から離れてしまう事も、止める権利だって……もう無いのかもしれない。




今朝広海は、デイの玄関で偶然会った時に「誕生日おめでとう」と言ってくれた。



だけど、その「おめでとう」は「おはよう」の挨拶と同じくらいの、さらっとしたものだった。


それ以上の会話も無く、そのまま広海はロッカールームへと歩いて行ってしまった。


そして仕事中は、普通の態度で接して来た。


それが、かえって広海との心の距離が空いてしまったように感じられて、余計に寂しさが増していった。


そして終業時。


足早に職場を去っていった人の中に混ざって、広海も、才加も、いつの間にか帰ってしまっていた。

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