幼馴染みの期限
「宏美さん、ちょっと押さえてくださいよ。才加と広海が来る前につぶれちゃいますよ?」
「だってさー、悔しいんだもん。説教のシメのセリフが『どうせ結婚するまでの腰掛け程度の気持ちで仕事してるんでしょ?』だったんだよ?……何が悔しいって結婚どころか彼氏もいないから、だったらお望み通り結婚して辞めてやるわー!って言えないとこなんだよ!!」
あぁ……また叫んじゃったよ。
ってか『腰掛け程度の気持ち』で仕事をしてるってトコには反論しないんだ……
それで良いのか?宏美さん……
そして、酔ってるのにババ山……じゃなくて樺山さんのモノ真似のとこだけ妙にそっくりで、感動すら覚えてしまう。
宏美さんは私の2つ歳上だから今年で6年目だ。
新人を色々と指導しなければいけない立場だけど、中堅職員の宿命と言うか何と言うか、ベテラン職員には色々と言われてしまう損な役回りになることが多い。
ババ山……もとい、樺山さんは介護チームの統括主任だ。40代(絶対に歳を言わないので推定)、独身の彼女は何かにつけて宏美さんと私に絡んでくる。
「若い女にただ嫉妬してんのよ。じゅりっちだって色々言われてるでしょ?でも同じ同期なのに、ろみっちには何も言わないじゃん。今日だって一緒に入浴介助やってニコニコしちゃってさぁー。『ヒロミくーん、こっちもお願ーい(はーと)』だって。聞いてて寒気したっつーの」
宏美さんのあまりのモノ真似のクオリティの高さに、ノリノリで入浴介助を楽しむ樺山さんの姿が目の前に浮かぶ。
おおぅ……
慌てて頭をブンブンと振って、お酒が不味くなりそうな妄想を振り払った。