幼馴染みの期限
訳の分からない事ばかり言って、ボロボロと涙を流し続ける私を、樺山さんはきっと呆れて見ているだろう。


そう思ったのに、涙の膜の合間から見える樺山さんの表情は、何故かとても優しげに見えた。


樺山さんはポケットからハンカチを取り出すと、そっと私の手に握らせた。


「ねぇ渡瀬さん、間違ってたらごめんね。今の言葉は、渡瀬さんが沖田くんと離れて始めて、沖田くんがどれだけ自分にとって大切な存在だったのか気がついたっていう解釈で合ってるのかしら?」


樺山さんの問いかけに私はこくんと頷き、ハンカチを目に押し当てた。




ーーこの十年、


広海に対して私が恋愛感情を抱く事は、一度も無かった。


それは、広海が自分よりも他の女の子に優しくしているのも、自分より他の女の子を優先しているのも、見た事も無かったからで……


だから、広海が離れていくのは寂しいとか、他の人じゃなくて私だけを見て欲しいとか、そんな恋愛じみた感情を持つ機会も無かったからだ。


……それは、そんな負の感情を持たせないくらい、ずっと広海が幼馴染みとして私の近くに寄り添ってくれていたからだったんだ……と今更気がついた。

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