幼馴染みの期限
……それにね、と、悪戯な笑みを見せながら、樺山さんの言葉は続く。


「沖田くんはずっと渡瀬さんの事を見守っていたと思うわよ。仕事上の関わりしかない私でも分かるくらいにはっきりとね」



「幼馴染みを止めて、沖田くんは異動願いを出した。それは、渡瀬さんを見捨てた訳じゃなくて、一歩踏み出したって事じゃないの?それは、ただ見守るだけの関係を止めたって事よ」



「渡瀬さんも、考えたらいいのよ。今まで繋いできた縁を、これからも二人で繋いでいくのか。それとも……鎖を断ち切って他の誰かと一から新しい縁を繋いでいくのか……って言っても、もう答えは見えてるみたいね」



「そんな情けない顔をしてる暇があったら、全部本人にぶつけてスッキリしてきなさい。誕生日なんだから……多少の我が儘は許されるんじゃないの?」



ーー今日は一年に一度だけの、特別な日なんだから。


そう言って、樺山さんはパチッとウインクをした。


そんな彼女は、いつも厳しい視線で私達を見ている時とは違って、とても可愛らしく見えた。


***



10分後。


業務日誌を打ち終えた私を、樺山さんは日誌のチェックもそこそこに、事務所から追い出した。


そして、ロッカールームでのろのろと着替えていると、「さっさと帰りなさい!」とだめ押しの一喝を浴びて、私は逃げるように外へと飛び出した。

< 265 / 345 >

この作品をシェア

pagetop