幼馴染みの期限
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「おはよう、樹里」
「……おはよ」
目の前で広海が笑っている。
さっきは、その唇が私の唇とか、瞼とか、頬とか、首筋とか指先とか、色んな所に触れ……
って、いけない。あれは夢だよ!夢!夢!
頭にカーッと血が上りかけて、慌ててぶんぶんと頭を振る。そんな私の様子を母と広海が呆れた様子で見ていた。
「なに真っ赤になって首振ってるの?……変な子ねぇ」
「樹里が変なのはいつも通り。あ、だし巻き玉子だ。旨そう。いただきます」
「それもそうね。はい、どうぞ召し上がれ」
ちょ、ちょ、ちょっと!広海もお母さんも酷くない?
ってか、広海!娘の私より先にご飯食べてるなんて信じられない!
動揺している私の様子を心配するどころか、二人ともスルーして、広海はまるでここの家の人のようにリビングで朝食を食べている。
広海と付き合い始めてほぼ一ヶ月。我が家では、これが当たり前の朝の光景になっていた。
「あー、やっぱり里子かーさんのだし巻きが一番好きだな」
だし巻き玉子を頬張りながらしみじみと言った『好き』の言葉に、また心臓がドクンと鳴った。