幼馴染みの期限
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『…………樹里』
『……おい、樹里』
夢の中にしてはやけにリアルな声が聞こえて、私は重くなっていた瞼を擦りながらゆっくりと目を開けた。
ぼやんと真っ白に滲む視界の中に何十年も見慣れていて、それでも毎日見惚れてしまう顔を見つけた。
「……ひろ、み?」
「ようやく起きたか。……ほら、帰るぞ」
「かえる……ひろみカエル?……なんでー?」
視界は段々とクリアになってきたけど、思考はふにゃふにゃで、一つも口から意味のある言葉が出て来ない。そんなふにゃふにゃな私を、薄茶色の瞳が呆れたように見つめていた。
「……ったく、酔っ払いが。才加、お前何でこんなに飲ませたんだよ」
チッと舌打ちをすると、薄茶色の瞳がふいっと視界から外れた。どうやら後ろを振り返ったらしい。
「勝手に飲んだの。私達はこっちの酔っ払いを送るから、樹里の事よろしくね」
そう聞こえたかと思うと、ストレートの黒髪がいきなり視界に飛び込んでくる。そのまま黒髪は薄茶色にすいっと近づいて、「…………だからね」と、何やら耳打ちをしたようだった。
そのまま黒髪はゆっくりと離れていった。まだぼんやりとした視界の中で、黒髪に寄り添ったデカイ人が、何か荷物でも運ぶように肩に人を乗せているのが見えた。