幼馴染みの期限
彼が笑うと形の良い眉がきゅっと下がって、普段は他の同級生達よりも大人びて見える顔があどけない表情に変わる。
私はその笑顔が大好きだった。
彼の名前は 、向井 慶。
私が初めて好きになった人だった。
***
「渡瀬は今何してるの?」
「えっ……と、介護士をしてるの。あのっ……『ニコニコえがおデイサービス』ってとこで。市立図書館の近くなんだけど……知ってる?」
「うん、知ってるよ。あのアイボリー色の大きい建物だよね?じゃあ市役所とも近いんだ。凄く近くで働いてたのに、今まで会わなかったね」
「う、うん……」
動揺しているのか、恥ずかしいのか、それすらも分からない状態のままで会話をしている。
いつの間にか宏美さん達は他のテーブルへと移動して、私達二人だけが残されてしまっていた。
目も合わせられないで固まったままの私に、向井くんは「渡瀬緊張しすぎ。そんなに人見知りだったっけ?」と言って、ははっと吹き出すように笑った。
その昔のままの笑顔に、胸の奥がキュッと締め付けられた。