幼馴染みの期限

向井くんは……きっと昔の同級生に偶然会って懐かしいなくらいの感情で話をしてるんだろうな。


私が向井くんのことを好きだったってことも、その懐かしい記憶の中に埋もれてしまうほど彼にとっては些細な事だったのかもしれない。


……そうだよね。そんな昔の記憶をこの歳まで引きずってる私のほうがおかしいんだ。


普通に会話をしなきゃ。同級生らしく。


「……向井くんは、何で市役所で仕事をしてるの?」


「俺ね、総務課にいるんだ。笹岡さんと一緒。就職してからはずっと同じだよ」


『何で?』って聞いたのに……なんだかうまくごまかされてしまったみたい。


「……こっちに戻って来てるの、知らなかったな」


「大学は仙台だったけど、就職は羽浦にしたかったんだよね。公務員試験も受かったし、運が良かったのもあるけど」


「運がいいだなんて。向井くんは昔から頭良かったでしょ」

頭も良かったし……実家の病院を継ぐために、医大に進んだんじゃなかったの?


「……委員長に言われたくないよ」


また私の戸惑う顔を見てごまかすように、向井くんは私の事を昔のあだ名で呼んだ。


向井くんの委員長という呼び方に懐かしさが込み上げる。10年前は渡瀬でもなく樹里でもなくて、彼は私をこう呼んでいた。


「私なんてみんなに押し付けられただけだから。成績と人気で委員長が決まるんだったら、みんな向井くんにやって欲しかったはずだよ」
< 44 / 345 >

この作品をシェア

pagetop