幼馴染みの期限
「渡瀬、声デカいって。あはは。……俺これにしよーっと」
そう言って彼が選んだのは苺がたっぷりと乗ったタルトだった。
「今の渡瀬の顔見てたら急に食べたくなっちゃった。真っ赤だよねー。この苺。旨そう」
……それは、ワタシの顔が苺のように真っ赤だってことデスか?
向井くんって、こんなに意地悪なヒトだったっけ?
「……私、これにするね。オレンジピールのフォンダンショコラ。爽やかそうだけど、中身はまっ黒だよね。なんだか向井くん見てたら食べたくなっちゃった」
目の前にいるのは間違いなく初恋の人だけど、からかわれ続けているうちにいつもの自分のペースが戻ってきた。
自分をよく見せようと取り繕う気持ちも失せて、一気に力が抜けていく。一時間前の動揺していた自分が何だかバカみたいに思えてきた。
広海のせいで『意地悪』にはある程度免疫が付いてるから、気まずい相手にだってこれくらいの切り返しはできるんだからね。
ほどなくして注文したケーキセットが運ばれて来て、暫く私達は無言でケーキを口に運んだ。
むむっ……このお店、パンが美味しいからよく買いに来てたけど、ケーキもめちゃくちゃ美味しいよ!
こんど才加と一緒に来よう。
あっ、広海にも教えてあげよっと。