幼馴染みの期限
広海の家は道路を挟んだ向かい側だ。
住宅地の道路だから道幅は狭い。
そして田舎の一軒家は基本的にノー戸締まりだ。
おまけに小さい頃からお互いの家を行き来しているから、広海パパやママにだって、「樹里ちゃんならピンポンとか、挨拶とか、何にもいらないからねー」と言われている。
なので、家を飛び出して1分もかからずに、私は広海の部屋のドアの前に立っていた。
ドンドン!と乱暴にドアをノックする。
「ちょっと広海、いるんでしょ?開けてよ」
部屋の中からは返事が聞こえないけど、ヤツは確実に家の中にいる。玄関に靴があることは確認済みだ。
「広海ー!!」
またドアを叩きかけてドアノブに手を掛けると、それはあっさりと下に降りた。
「……何だ、開いてるじゃん」
「ちょっと、広海いるんでしょ?」
そう言いながら部屋に入る。
黒い塊がベッドに寝そべっている。そのまま動かずにちらりと視線だけをこっちに向けたのが見えた。
「やっぱりいた!」
黒く見えたのは黒い(しかもだいぶくたびれた)スウェットを着ていたから。相変わらず家にいる時はだらしない格好をしている。
これが中学の時に(非公認だけど)ファンクラブができたほどの男の姿だろーか……
こんな格好見たら、当時の広海ファンの女の子たちがびっくりしちゃうよね、きっと。