幼馴染みの期限
暫くお互い無言で見つめあった後で、広海が静かに身体を離して私の手からスマホを取り上げた。
「お前、落ちそうになったら普通スマホは離すだろ。……何でそのまま固まるかなー」
「……だって、広海今大事なトコだって言ってたから」
「ラグ敷いてるんだから、スマホが落ちたって大丈夫だろ……あっ、逃げられた」
スマホの画面を見ながら舌打ちした広海の顔をまじまじと見た。
……じゃあさ、あたしだって……落ちても大丈夫だったでしょ?
そう思ったけど、結局口に出すことは出来ずに、喉の奥の疑問を無理矢理噛んで飲み込む。
そろそろと起き上がり、広海に気がつかれないようにそっと捲れ上がったワンピースの端を引っ張った。
「樹里」
「な、何っ?!」
「ふっ、どもってんじゃねぇよ。俺、まだお礼の言葉聞いてないんだけど」
「……ありがと」
消えそうなほど小さな声だったけど、何とか震えずに口にすることができた。
たぶん……今の状況に動揺したのは私だけだったんだ。それを死んでも広海には知られたくなかった。
「そう言えばさぁ、お前、俺が里子かーさんにいろいろ話したことだけ文句言いにわざわざここに来たわけ?」
ふと思い出したように広海が言った。
確かにきっかけはそうだった。……けど。