幼馴染みの期限
「樹里」
「な……に?」
そのまま耳元で囁くように名前を呼ばれた。
ドキンドキンと、音を立てて騒ぐ心臓の音が煩わしい。
お願いだから、ちょっとだけ黙ってて。
広海が何を言ってるのか……何が言いたいのか分からなくなっちゃうから。
「2月14日。今度の誕生日で10年だからな」
「……えっ?」
「どうせ忘れてるだろうけど、誕生日を過ぎたら、もう俺が思う通りにするからな。だから……」
「お前も覚悟しておけよ」
広海はそれだけ言うと、すっと身体を離して立ち上がった。
そのまま休憩室の扉を開きかけて……「もうちょっと後でデイルームに戻れ」とトントン、と頬に指を当てながら言った。
ほっぺた?
…………わたしの?
壁にある鏡を見ると、そこには真っ赤な顔をした自分の姿が映っていた。
「……やだ」
思わず口にしていた。
広海に驚くなんて。
こんなに真っ赤な顔をして。
自分ばっかり意識をしてしまっているみたいで……恥ずかしい。
広海はそんなつもりで言ったんじゃない。きっと。
10年前の約束を覚えているかどうか、確認したかっただけだ。
広海は何にも分かってない。
『どうせ忘れてるだろうけど』なんて……
私があの日の事を忘れられる訳がないよ。
今日は2月7日。
私達が『幼馴染み』でいられる期限は……
あと一週間だ。