幼馴染みの期限

映画館みたいにずっと隣り同士で座らなければいけない空間は、何だか緊張してしまいそうだ。


それに水族館なら駅前から遠いから、私達の事を知っている人達に会わないんじゃないかな……とも思った。


「じゃあ水族館で決まり。行こう」


向井くんはそう言うと私の手を取って歩き出した。


……ナチュラルに手を繋ぐなー


街コンでも『Milkyway』に向かう時に手を繋がれたな、と思い出す。


不思議とその時に感じた困るような、焦るような気持ちは今は沸いてこなかった。


コンビニの駐車場にはブルーのスポーツカーが停まっていた。爽やかな色合いが向井くんらしい。


「どうぞ」と向井くんがドアを開けてくれる。こんな風に『女の子』のように扱ってくれる人は私の周りにはいないので、なんだかとても恥ずかしくなってしまう。


「どうしたの、渡瀬?」


慣れない扱いに戸惑う私を、運転席に座った向井くんが不思議な顔で見つめてきた。


「最近デイの車とか自分の車とか、運転手ばっかりしてるから助手席にいるのが何か変な感じなんだよね」


こんな状況に慣れてなくて恥ずかしいから、とは言えずに何となくごまかしてしまっていた。

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