幼馴染みの期限

今私はバーカウンターの横に巨大な水槽がある『お洒落なバー』の中で、嗚咽混じりで泣いている。


確かにお洒落だったけど、水槽を見てさっきまでの向井くんとのやり取りを思い出し、広海と才加が並んで歩いていた事まで引きずられるように頭の中に浮かんで涙が止まらなくなった。


泣き続けること、30分。


最初は優しく慰めてくれていた宏美さんも、もはや若干引いていた。


「ねぇ、いい加減何があったのか話せないの?」


「いぇ……ただどうしでいいか……わがんなぐで……」


「才加っちも呼ぼうか?」
「やめでぐだざいっ!」


目を見開いて言葉を切った私に、宏美さんは驚いたような視線を向けた。


「ぐすっ……話しますがら。その前に鼻をがんで来てもいいでずが?」


そのままお洒落なバーのこれまたお洒落なトイレに駆け込んで、ズビズビと遠慮のない音で鼻をかんだ。


化粧台に顔を向けると、真っ赤な目をした自分の姿が鏡に映っていた。


「あーあ……」


まるでウサギみたい。


ウサギって寂しいと死んじゃうんだっけ?


もし私がウサギだったら、今のこの状態は瀕死寸前だ。


もう一回攻撃をくらったら間違いなく死んでしまう。



大切な幼馴染みと、大好きな親友。


二人が付き合っているのなら、邪魔にならないように離れなければいけない。


まだ付き合っていなくて、惹かれ合っているのなら……今までの友人達にそうしてきたように、全力で応援しなくてはいけない。

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