幼馴染みの期限
安心しきっていたんだ。
もうこれで面倒事は終わったんだ、と。
これで自分の恋だけに目を向けられる、と。
「さ、美桜帰ろー」
くるり、と美桜に背を向けて、私は教室の扉を開けて先に廊下へと飛び出した。
だから、解放感いっぱいの私の背中を美桜が苦々しい表情で見ていた事になんて……
全く気がつかなかったんだ。
***
私と広海と伊東 美桜(いとう みお)は幼稚園からの幼馴染みだ。
しっかり者……と見せかけて何だかんだと抜けている私と、見た目は綺麗だけど口が悪く毒吐きで、だけど友達思いという良いヤツか悪いヤツかよく分からない広海。
そして、何かと喧嘩をする私と広海をいつも『しょうがないなぁー』って言いながらフォローをしてくれる、明るくて優しくてお姉さんみたいな存在の美桜。
私達三人は、小さい頃からいつも何をするのも一緒だった。
けど、中学生になって陸上部に入った広海と、文芸部に入った私達はもう三人で一緒に帰ることは無くなっていた。
「あーお腹空いた。ねぇ、美桜。帰りどっかに寄ろうよー」
「……うん」
行こう!行こう!といつもなら明るく言葉を返してくれるはずの美桜の顔はなぜか暗かった。
だけど自分の事しか考えていなかった私は、その沈んだ表情を夕暮れのせいだと思って、振り返ることなく歩いて行った。