幼馴染みの期限
「……分かった」
少しだけうつ向くようにして、じっと私の話を聞いていた広海が突然顔を上げた。
「で?今日が『幼馴染みの期限』ってことでいいんだな?」
その問いかけに反射的に首を縦に振った。
「じゃあ家まで送る。……嫌だなんて言うなよ。今日までは俺たち幼馴染みなんだからな」
広海はそう言うと私の手を取って、そのままスタスタとバーの出口へ向かって歩き出した。
まるで振りほどくなよとでも言うようにギュッと手を握られ、抵抗することもできないままズルズルと引きずられるように足を進めた。
「……あっ。……えっ?!……ちょ、ちょっと待って!……ひっ、宏美さぁーん!」
広海の勢いに戸惑いながらも、情けない声を出して宏美さんに助けを求める。
そんな私を宏美さんは何故か笑顔で見ながら「今日は私のおごりね」とグラスを持ち上げた。
その後で前を向いて歩いている広海に聞こえないよう、私だけに向かって『が・ん・ば・り・な・さ・い』と声を出さずに口を動かした。
……私は何を頑張ればいいのですか?
宏美さんの言葉の意味を考えようとしたけど、どんどん歩いていく広海に付いていく事に必死になって、転ばないように歩く事だけしか考えられなくなった。
結局、何一つ考えが纏まらないまま気がついたら私の家へとたどり着いてしまっていた。