幼馴染みの期限
手を繋いだままで、広海は家の玄関の扉を開けた。
「こんばんはー」
さっきまでの緊張感が嘘みたいに、広海の間延びした挨拶の声が玄関に響く。
「はぁい」
リビングの方から声がして、母が玄関までパタパタと駆けてきた。
「あら広海くん。樹里もお帰りなさい。二人ともどうしたの?」
小さい頃ならともかく、手を繋いで現れた私達に母も不思議そうに首を傾げていた。
「里子かーさん。樹里、ちょっと借りるよ」
「……はぁ?」
「あら、今からどこかに行くの?」
意味が分からなくてポカンと口を開けてしまった私の目の前で、母は特に驚く様子も無く聞き返した。
「明日中にはちゃんと返すんで」
ペコリと頭を下げると、広海はそれだけを言い残して玄関を後にした。
そんな私達を母は笑顔で送り出していた。
何処に何をしに行くのかを、一切説明していない。
何一つ状況が分からないのは私と一緒のはずなのに、戸惑うこと無く一人娘を送り出せる母に心底驚いた。
『借りるよ』『明日まで返す』って……私は物じゃないっ!あっさり了解しないでよ!!
いくら相手は幼馴染みとは言え、行き先も告げずに大事な一人娘を連れていこうとしているんだよ!
これは……拉致じゃないの?
幼馴染みを語った拉致じゃないんですか?!
焦る私の背中に「いってらっしゃーい!」と陽気な母の声が降り注ぐ。
おかあさーん!ここに人さらいがいますー!!
『いってらっしゃーい!』じゃないでしょーー?!
お願いだから止めてよーーーー!!!
訳が分からないままぐいぐいと引っ張られて、気がついたら広海の車へと乗せられていた。