陰なる閃刃
(ま、まずい)

藤吉はそう思ったが、すでに連也の間合いに入っている今、どうすることも出来ない。

連也の殺気が、藤吉を包み込む。


「他の者は、だませても」

(う、動けぬ)


藤吉の額から、冷や汗が浮きでる。


「この柳生連也斎巌包の目は…」


連也の左手親指が、刀の鍔(つば)に触れる。


「節穴ではないぞ」


その親指が、こいくちをきる。


藤吉は、出かける前に聞いた利巌の言葉を思い出す。


『気をつけてまいれ』


あれは、こういう事だったのだと、藤吉はたったいま理解する。

下手に動けば斬られる状況にあるなか、藤吉は覚悟を決める。

ゆっくりと頭を下げ、斬り捨てられる恐怖に負けないように声を絞り出す。


「すぐれた眼力、おそれ入ります」


連也が問う。


「おぬしは、何者だ」


藤吉はハラハラしながら頭を上げると、己の素性を話し始めるのだった。


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