陰なる閃刃
その何者かは、笑いそうになるのを噛み殺しながら、夜になるのをじっと待つ。

やがて、みんなが寝静まる。

黒っぽい忍装束に身をかためた男が、このときを待っていたとばかりに動き出す。

男は屋根裏をつたい、ある部屋の真上にくる。

天井板のひとつを、静かにずらす。

下を覗くと、産まれて三ヵ月の赤子が眠っている。

その横で添い寝をしている若い女は、屋敷の女中だろうか。

男は天井裏から部屋の中へ、音もたてずに着地する。

暗いなか、夜目のきく男は右手に短刀をにぎり、赤子も女中も眠っているのを確認する。

まず、女中の方へ近づくと、声を出させないよう彼女の口を左手で静かにふさぐ。

次に、短刀を持った右手を振りかざす。

(恨みはないが、ゆるせ)

そのときだった。


「赤子だけでなく、女中もろとも亡き者にする気か」


予期せぬ声を聞いた男は、女中から素早く飛び退いた。


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