陰なる閃刃
男の心臓が早鐘を打つ。
戦慄が走り、全身から冷や汗が滴る。
声がするまで、人の気配をまったく感じなかった彼は、焦った。
これほど見事に気配を消せるのは、よほどの達人にちがいない。
男を驚かせたのは、それだけではなかった。
眠っていたはずの女中が、バッと布団を跳ね上げる。
彼女は瞬時に赤子を抱きかかえ、声のした達人の方へ低い姿勢で飛んで行く。
ふつうの女の動きではない。
その二人の間で、言葉が交わされる。
「おせん、ご苦労」
「はい」
今回の企みは、完全に読まれていた。
佐々本家の後継ぎとなる産まれて三ヵ月の赤子は、佐々本家にとっては生きた『家宝』と言えるだろう。
男の頭が混乱する。
読まれた企み。
目の前にいる初老の達人。
その傍にいる、赤子を抱いた若い女。
(こんなはずでは…)
思わぬ誤算に、目眩がしそうになる。
戦慄が走り、全身から冷や汗が滴る。
声がするまで、人の気配をまったく感じなかった彼は、焦った。
これほど見事に気配を消せるのは、よほどの達人にちがいない。
男を驚かせたのは、それだけではなかった。
眠っていたはずの女中が、バッと布団を跳ね上げる。
彼女は瞬時に赤子を抱きかかえ、声のした達人の方へ低い姿勢で飛んで行く。
ふつうの女の動きではない。
その二人の間で、言葉が交わされる。
「おせん、ご苦労」
「はい」
今回の企みは、完全に読まれていた。
佐々本家の後継ぎとなる産まれて三ヵ月の赤子は、佐々本家にとっては生きた『家宝』と言えるだろう。
男の頭が混乱する。
読まれた企み。
目の前にいる初老の達人。
その傍にいる、赤子を抱いた若い女。
(こんなはずでは…)
思わぬ誤算に、目眩がしそうになる。