陰なる閃刃
早鐘を打っていた男の心臓が、凍りつく。

あのまま襖に手をかけて開けようとしたなら、声も出せぬまま斬り捨てられていただろう。

人とは思えぬ気配の消し様に、男は「化け物か!」と思った。

若き剣士が、じろりと男を見る。


「よく察したな。おぬし、なかなかできるな」


男にすれば、「おぬしこそ」と言いたくなる。

剣士が言葉を続ける。


「父上が相手では、しんどいだろう」


そう言いながら、足を一歩ふみ出す。


「拙者が相手になろうか」


この若き剣士が連也であることは、言うまでもない。

連也の左手が、腰の刀に添えられる。

男の全身が、再び冷たい汗にまみれる。

自分とは格がちがう達人二人を相手に、いや、たとえ一人であっても、自分に勝ち目があるとは全然思えない。

逃げることも出来ない。

絶体絶命であった。


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