陰なる閃刃
虎之助に戦慄が走る。

(こ、この俺が…)

いとも簡単に後ろをとられた虎之助は、額から冷や汗を滴らせる。

(う、動けぬ)

下手に動けば斬られる。

虎之助は意を決して、自分の後ろにいる人物に申し出た。


「振り向いても、よろしゅうございますか」

「うむ、かまわぬ」


静かな返事がかえってくると、虎之助はゆっくりと後ろを振り返る。

少し年老いて見えるが、がっしりとした体躯の男が、胸のまえで腕を組んで立っている。

刀は身につけていない。

殺気など微塵も感じられず、とても大人しい印象を受ける。

澄んだ目の奥に、計り知れない強さが秘められている。

その強さは、虎之助の身体の芯まで突き刺さってくるようだ。

(俺など、まったく敵うお方ではない)

虎之助は、一瞬で悟った。


これが、柳生新陰流第三代、柳生兵庫助利巌(やぎゅうひょうごのすけ・としとし)との初めての出会いだった。


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