陰なる閃刃
間者の身体に突き刺さる視線は、ひとつではない。

(三人…か?)

それも、別々の方向から、見知らぬ者たちが自分を目で捉えている。

囲まれたと言って良い。

極めてまずい状況にあるが、このままじっとしている訳にはいかない。

己の仕事を果たさねばならない。

(ええい、ままよ)

じっとしていた間者は決心して、素早く逃走に移る。

三つの視線が、後を追う。

屋根伝いに逃げる間者は、身の軽さには自信があった。

しかし、追いかけてくる三人は、確実に距離を詰めてくる。

(何とか振り切らねば)

追っ手に向けていた意識が、そういう思いへ逸(そ)れたとき


「ぐっ!」


追っ手から放たれた小刀が、間者の右足のふくらはぎを捉えた。

間者は地に落ち、あっという間に囲まれる。

皆、忍装束だ。

三人とも刀は背中に背負っている。


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