陰なる閃刃
平助が主人の屋敷にたどりつく。

それを見とどけた新山は、己の気配を断ちながら屋敷に潜りこむ。

縁の下に身を鎮める新山は、平助と彼の主人と思われる男の声を聞いた。


「……ということでございます」

「た、たわけたことを!」

「柳生は本気でございますよ、橋ノ下様」


新山は、黒幕の名前をはっきりと耳にした。

(ハシノシタ…)

城に勤める肥満体の彼は、佐々本のライバルといえる存在であった。

利巌のにらんだとおりである。


「橋ノ下様、柳生を相手にするのは、余りに無謀ではありますまいか」

「うるさいっ。もうよい、さがれ!」


平助は主人の言葉にしたがい、部屋を出て行く。


「くそっ、柳生め、佐々本め!」


橋ノ下は誰もいない部屋で怒鳴ったあと、顔を真っ赤にしながら部屋を出て、厠(かわや)に向かう。

縁の下にひそむ新山は思った。

(柳生の恐さが、まだわかってねえな)


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