陰なる閃刃
新山は少々困惑した面持ちで、虎之助に尋ねた。


「やり過ぎましたかね」


虎之助は腕を組んで目を閉じる。

(十兵衛様なら、何とおっしゃるだろう)

そう思いながら、十兵衛の姿を思い浮かべる。

虎之助の心に現れた十兵衛は、ごろんと横になって鼻をほじりながら、こう言った。


「良い良い。赤子の命を狙うような悪党じゃ。死んで当然、気にするな」


虎之助は、クスッと笑う。

きょとんとしている新山に、虎之助は微笑んだ。


「赤子の命を狙うような悪党だ。気にするな」


その後、虎之助は屋敷の庭に出る。

思えば、今回の一件は

喜八郎が小刀を使いはしたが、皆、己の刀を血で濡らすことはなかった。

利巌にしても連也にしても、刀に手を添えることはあったが、抜いてはいない。

(真の達人とは、むやみに刀を抜かぬものなのか…)

虎之助は、それを学んだような気がした。


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