陰なる閃刃
十兵衛の顔つきが、ふだんと違う。

それを見た虎之助たちの表情が、引きつるように固くなる。

十兵衛の口には魔物のような笑みがたたえられ、鋭い目は異様な光を放っていた。


「面白そうではないか」


虎之助が、ゴクリと唾をのむ。


「十兵衛様、まさか…」

「わしも行くぞ。利巌殿には内緒でな」


十兵衛の内に棲まう鬼が、目覚めようとしていた。


翌日、太陽が西に傾きはじめたころ、掘っ立て小屋では例の男たちがたむろしていた。

みんながあぐらをかき、くだらない話で盛り上がっている。

女子たち四人は、不安な想いを顔に浮かべながら、奥の部屋の隅にかたまって座っていた。


男の一人が立ち上がる。


「小便してくらあ」


与一という男が小屋から出て行く。

刀は持ち出していない。

林の中に少し入って用をたしている、そんな与一の後ろに何者かが忍びよる。


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