陰なる閃刃
十兵衛は自分の右後ろにいる伊助に、チラッと顔を向ける。

それが何の合図か分かっている伊助は、頬に傷のある男から奪った刀を、切っ先を上にして十兵衛に放る。

十兵衛は右手でその刀をパシッと受けとった。


テレビの時代劇などでは、一本の刀で大勢の相手を斬り倒すのをよく見る。

だが、現実には刀で人を斬ると、人間の血と脂で切れ味が鈍るため、何人も立て続けに斬ることはかなわない。


二本の刀をもつ十兵衛は、残った輩たちにジリジリと歩みよる。

あっという間に三人になった悪党どもは、全身に冷たい汗を滴らせながら後退りする。


不意に、十兵衛が自分の前にいる男に向かって、左手にもっている刀をぽいっと投げた。


「ひっ」


恐怖が頂点に達していた男は、目を閉じながらその刀を自分の刀で受ける。

(バカが…)

伊助がそう思った瞬間

ズバッ!

鬼神の一撃が、容赦なく炸裂する。


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