陰なる閃刃
なまくらな刀は、この一撃でダメになる。

(折れたか…)

十兵衛は、再び自分の後ろにいる伊助へ振り向く。

伊助は、喉を突かれてこと切れた男から奪った刀を、十兵衛に投げわたす。

十兵衛は、血にまみれた刀を放りすてた。

刀はガシャンと音をたてて転がり、切っ先がポッキリと折れる。

まだ新しい刀だったが、安物しか手に入れることが出来なかったのだろう。


それにしても、力と速さで押しまくる殺人刀を極めし十兵衛は、まさに鬼神である。

返り血を浴びて全身が真っ赤に染まり、目を爛々と輝かせる十兵衛のどっしりとした姿は、悪党たちから見れば赤鬼そのものだ。

なにより、桁外れに強い。

全身から放たれる殺気が、尋常ではない。

その殺気に、男たちの身体が震えあがる。

目のまえにいる鬼神が、天下にとどろく柳生直系の剣士であることを、まだ生きている二人は知るよしもない。

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