陰なる閃刃
虎之助の右にいる男が刀を上段に振りあげ、奇声とともに虎之助に斬りかかろうとする。

だが

ズドッ

虎之助の方が先に動いていた。

男は刀を振りおろすことなく顔面を割られ、吹き出る鮮血が虎之助に向かって最期の抵抗を示す。

虎之助は、もう一人の男の方へふり向いた。


「ひっ」


男は怯えながら後退る。

仲間はみんな倒され、とうとう自分独りになってしまった。

いままで、腕がたつと思われる相手とやり合っても、三人以上で斬りかかれば負けることはなかった。

しかし、今回は勝手がちがう。

一人を相手に多数で挑んで、これほど簡単にバタバタと倒されるなど、思ってもみなかった。

恐怖しか感じない身体は、震えることを止めようとはしない。


虎之助が刀を下げたまま、ゆっくりと左へ歩く。

男は虎之助に刀を向け、おなじように左へ動く。

お互いが、左回りに歩を進ませる。


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