陰なる閃刃
「ちぇっ。なんだよ、おせんのやつ。あんな言い方しなくてもいいじゃねえか。なあ」

(いや、「なあ」と申されましても…)


十兵衛の言葉に、困惑した顔で苦笑いを浮かべるしかない虎之助たちであった。


悪党討伐に片がつき、あとやるべき事は、拐われた四人の娘たちを親のもとに帰すことだ。

おせんに藤吉、喜八郎そして伊助が、それぞれ娘たちに付き添い、親のところへ送って行くようにした。

皆が出払ったあと、十兵衛と虎之助が残される。


「まいったな。うかつだった」

「弱りましたね」


なにが弱ったのかというと、悪党どもを始末したのはよいが、いまのままでは身体中が血まみれの状態で昼の町中を歩くことになる。

虎之助たちが仕事をするときは、だいたい夜であったため、そういうことは気にもしていなかった。

掘っ立て小屋には水を貯めた樽があるので顔や手足は洗えるが、着物はなんとも具合が悪い。


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