陰なる閃刃
とりあえず、顔と手足をきれいにした二人だが、この場所から動けない。

どうしようかと思っていると、新山が林のなかからひょっこりと姿をあらわす。

出かけるまえに、利巌に呼ばれた新山だけは悪党討伐に加担せず、別の用事をこなしていた。


虎之助が、いま来たばかりの新山に声をかける。


「どうした、新山。そっちの用事は終わったのか」

「利巌様から頼まれました」


こちらへ向かってくる新山は、右手に風呂敷包みをもっている。

新山が虎之助たちの前で足を止めて風呂敷をひろげると、中には着物が二つ入っていた。

十兵衛と虎之助の目が点になる。


利巌には「尾張がどんな町なのか、虎之助たちに案内してもらいます」と言って、屋敷を出た十兵衛である。

自分の刀は連也に預けた。

そのとき、連也は眉をよせた。


「本当に、刀をもって行かないのですか」

「うん」


この時代の常識にそぐわない。


< 70 / 77 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop