陰なる閃刃
辺り一面、異様な空気に包まれる。

目の前にいる武士が、唐突に口を開いた。


「繁盛しているそうだな」

「へ、へえ」

「拐った娘は、さぞ高い値で売れることだろう」


比草屋を待っていた武士、虎之助の言葉に、比草屋は困惑する。

その直後、知らぬ間に比草屋の背後にいた何者かが、比草屋の右膝のうらをトンッと突いた。

右膝が折れてカクッとバランスを崩し、転びそうになる身体を右手で支えたとき、後ろにいた者が比草屋の顔面を左右の手でガシッとつかむ。

間髪を入れず、右へ回すように一気にひねる。

ゴキッという音が、比草屋の最期を告げる。

虎之助が、仕事を終えた喜八郎をねぎらう。


「喜八郎、ごくろう」

「へい」


頭にかぶっていた手ぬぐいをとった藤吉が、虎之助にたずねた。


「こいつ、どうしますか」


三人が、比草屋の亡骸を見つめる。


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