最後のひとしずくまで
最後のひとしずくまで
急須にお茶っ葉を入れながら、わたしはひとり給湯室でため息をこぼした。
ついさっきのこと、わたしの作った書類に不備があり、やり直しになった。
それは、初めの頃に教わったような、初歩的なミス。
入社1年目とはいえ、季節はもう冬。
いい加減簡単なことには慣れなくてはいけないのに、いつまで経っても失敗してばかり。
上司にだって嫌味を言われてしまう始末。
わたしだって、なんとかしたいって思っている。
同期の人たちが少しずつできることが増えていって、評価されているところを見かけるのにわたしは……。
意図せず涙がじわりと浮かんでくる。
誤魔化すように煎茶と同時にコーヒーの用意をするためにマグカップを必要な人数分並べていると、背後に人の気配。
「泣いてるの?」
「っ……」
そこには、こてんと首を傾けて心配そうな先輩の姿。
中性的な甘いフェイスと、優しく少し低い声。
黒くなくとも爽やかに見えるものなのだと初めて知った、人より色素の薄い彼の髪。
まつ毛が長く唇はつややかと、女のわたしよりずっとしとやかな華がある。
まだ若いのに仕事ができて、みんなに必要とされる、わたしとは別世界にいる憧れの人。
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