身代わり王妃の恋愛録
陛下が来てからしばらくして、私は違和感を感じた。視線を感じるのだ。もちろん陛下じゃない。違うところから。
相手は一人だろうか。
店内には陛下以外にも大勢のお客様がいるし、ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。
私が視線を感じるということは狙われているのは“王妃”だろう。
アリアに無理言って短期でアルバイトさせてもらっているのだ。絶対お店で騒ぎを起こしたくない。
とりあえず外に出て、お店から離れようと考えるも、今の私は丸腰。本ですら持っていないのだから、敵うわけがない。
この国で帯剣できるのは貴族か王族で…。
そこまで考えて私ははっとした。長いコートに隠れていたけど陛下は剣を持っていた。あれを少々拝借しよう。
私は急いでアリアに事情を告げるとアリアの返事を待たずに陛下に突撃。
「ちょっとごめんなさいっ!」
陛下のコートをめくり、剣を拝借すると、私はお店を飛び出した。
視線の主も私についてきているのが分かった。推測は外れていないのだろう。
それに安堵しつつ、私は人の少ない場所を探してとりあえず全力で走った。