身代わり王妃の恋愛録

お妃様の服の中に、残念ながらズボンは存在しなかった。どれもこれも優雅なワンピースやらドレスやらドレスやら…。

要するに私が求めるようなあたたかくて機能性の良い服はなかった。

上に羽織るものもどれこもれも外観を損ねない薄手のカーディガンばかり。

なめているのだろうか、セレストの冬を。いや、王妃様がお城を出るなんてそうないから外に出ることを想定していないに違いない。

とにかくこれでは問題だから、私は数着服を買い込んだ。マフラーやその他の防寒具を買えばアルバイト代は消えてしまったけれど、満足な暖房器具のない孤児院に寒い格好で行くわけにはいかない。

シャーレットよりは南にあるセレストだが、それでも冬は寒い。

ブーツにパンツ、タートルネックにセーターをあわせ、コートを羽織った私が孤児院に着いたのは11時を回った頃だ。

その頃にはみんなお腹を空かせていて、私の登場にみんな目を輝かせてくれた。

お姉ちゃん、ご飯!ご飯作って!そんな言葉が嬉しくて、野菜を切る手を速める。久々の作業に胸が高鳴るあたり、やっぱり私はお姫様には向かないのだろう。ま、良いけどね。

「姐さん、手際いーね!良いお嫁さんになるよー…って一応今はお嫁さんか。あんまり活かせないけど…」

私の隣で目を輝かせるソラはというと華麗な手つきで野菜を炒めている。結構手際が良いのはなぜだろう。

「ソラも結構慣れてない?陛下といい、貴方といいなんなの?オカンでも目指してるの?」

切り終えた野菜をお鍋に移しながら私はソラに問う。無駄に高いスペック…気にならないと言えば嘘だ。特に陛下。あの人は私の髪を乾かすどころか、手芸までやってのけた。私が毛糸と鉤針を渡して手袋でも要求すれば多分作ってくれるだろう。

料理もできると踏んでいるのだけど、料理を作ってほしいなんて言って迷惑はかけられない。ただでさえ迷惑をかけ通しなんだから。当然手袋も要求しない。てか、陛下が編み物ってシュール過ぎるしね、うん。

「いやだってほら、うちの主何でもできるじゃん?騎士団長より武術に長けてるし、影の誰よりも隠密行動得意だし、もちろん仕事できるし、前代未聞18歳で即位してあっという間に内乱鎮圧して、傾いた財政立て直しちゃうし…」

ソラの口から次々と挙がる陛下の武勇伝に、私は驚くばかり。

けど気になることがある。陛下は18歳で即位したという。アルフレッド陛下が即位したのは二、三年前のような気がするのだ。

そして私の記憶が正しいとなると今陛下は20歳か、21歳くらい。

…私の推測より結構若い。我ながら随分失礼なことをズケズケと言ったもんだ。

後で謝ろうっと…。

「俺は主を満足させられる人間になりたくてね。炊事できるからなんだって感じだけど、主に負けてられないから」

そう言って炒めた野菜をお皿に盛り付けていくソラの手際は本当に良い。

「でも陛下なら、料理も人並み以上にこなせそう…」

そう言う私に、ソラは大きく頷いた。

「あの人にできない事はないからね」

今度は私が頷いた。あの人は良い旦那さんで、素晴らしい国王様で、性別が違えば良いお嫁さんにもなりうる人らしい。

いつかあの人の超ハイスペックの理由を尋ねてみたいな…。
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