身代わり王妃の恋愛録
この孤児院ではお昼を食べ終えた後腹ごなしに運動をするのがお約束になっている。
もちろん強制ではないのだけど、ほぼ全員が参加するので毎回なかなか盛り上がる催しになる。
何をやるかは毎回多数決で決めるけど、とりあえず私はいつも参加する。私は外で友達とはしゃぎ回るという経験がほとんどないから結構新鮮なのだ。
今日は“手つなぎおに”らしい。なんでも、鬼に捕まった人は、鬼と手をつないで自らも鬼になる、というものらしい。鬼が四人になったら二人ずつに分裂して、鬼が全員を捕まえたら終わり。
誰が考案者かは知らないけど、たかが鬼ごっこにもこんな種類があるなんて。最近の遊びはよくわからない。
それでもじゃんけんで私が鬼に選ばれてしまったから、木陰で十秒待つ。
なぜだか今日はソラも参加している。ちなみにソラは“私の友人”という設定で院長が快く迎え入れてくれた。子供達にも“美味しいご飯を作ってくれるノリの良いお兄さん”として結構歓迎されている。
「行くよー!」
数え終えた私は庭をぐるりと見回す。この場合、最初に狙うのは10歳以上の子達だ。それより下の子を追いかけ回すのは気がひける。
誰か手ごろなのはいないかと見回しながら歩く私はなぜだか突然背後から引っ張られた。
「ふあっ!」
変な声出た!とか羞恥心に身悶える前に、私は誰かに捕獲されてしまう。
鬼は私なのに?
恐る恐る振り返るけど視界いっぱいに広がるのは服だけ。身長高いなーなんて思いながら見上げると何故だか陛下の姿がある。
「え?」
私の肩に背後から手を回した状態のまま、無言で私を見下ろしている。
「捕まえた」
「え!?」
私だけ状況がわからない。何、これ。鬼は私でしょ?なんで陛下がいて、鬼の私が捕まってんの?
「で。この後どうするんだ?」
陛下が周りに声をかける。茂みから出てきた少年は私と陛下の状態を見て目を瞬かせる。
「アル兄ちゃん、捕まえるって、身体のどこかを軽くタッチするだけで良いんだよ?で、捕まえたらその捕まえた人と手を繋いで他の人を捕まえるんだ」
「アル兄ちゃっ!?へ、陛」
私の叫び声は陛下が私の口を押さえたことで途切れる。何故陛下がアル兄ちゃんと呼ばれていて(もちろんそれは名前がアルフレッドだからだと思うけれども!)ここにいて、鬼ごっこに参加してんの?
「…タッチするだけで良かったのか…」
気まずそうに顔を背け、私から離れる陛下が新鮮で何故だか嬉しい。可愛い。すごい可愛い。
にやにやするのを抑える私は、もうすでにニヤニヤしているソラとバッチリ目があった。
「陛…アル兄ちゃん?貴方のしもべが笑ってる」
その瞬間、恥ずかしそうだった陛下が無表情になった。スッと姿勢を正し、私の手を掴む。
「まずはソラだ」
「はーい」
私はこうして陛下と手をつないでソラを追いかけることになったんだけど…。
なんで陛下が入ったこと、私に知らせてくれなかったのだろう。陛下が鬼になるなら私は逃げたというのに!
なんだかちょっと腑に落ちなかった。