身代わり王妃の恋愛録
*4th Day*

目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。まだ日が昇っていないのだろう。

起きるにはまだ早いし、何より部屋が寒過ぎる。使用人が起きる前は、まだ暖房器具の一切が動いていないからお城とはいえ寒い。使用人が起きれば、主人のために暖房器具をつけてくれるから暖かいけど、まだ寒い今、活動するのは無理だ。

今日は特に寒い。きっと雪だ。

妃用の寝衣は外観重視なため、肌触りは良いけどあたたかくない。陛下の腕の中とはいえ、今日は寒い。

私はくるりと陛下の方を向くと、両手を陛下の胸に添えた。ちょっと大胆な気がするけど暖をとりたい私としてはそんなこと言っていられない。陛下の胸に顔を埋め、いつもより少しだけ陛下との距離を詰め、私は二度寝に突入したー



ー結果起きたのは9時過ぎ。

なんでだ、どうしてだ。そう叫びたいのをこらえて、私は陛下を起こすべく、顔を上げる。

何故だか陛下と目が合った。

「…なんで起きてるの?」

「…9時だからだろう」

「…」

「…」

「おはよう、陛下」

「ああ」

陛下は何故か私から目をそらさず、じーっと見つめている。

「…何?」

「…いつもより距離が近くないか?」

陛下に指摘された途端に、恥ずかしいことをしたような気がしてしまう。夜寒かったから、なんて言い訳くさい。他に理由はないし、陛下にくっつきたいからくっついたわけではないけど、嘘くさい。

「…あんまりにも寒くて…陛下の体温お借りしました…」

気まずい。思わず陛下の胸に頭の天辺をくっつけて、上を見ないようにしてしまうほどに気まずい。

「…そうか」

陛下の返事は簡潔で、余計に気まずい。なんか言ってよ。

それから会話が特になかったからなお気まずい。にもかかわらずどちらも起きようとしなかったので、いつもより近い距離でゆったりした時間を過ごすこととなった。

けどきっと、かなり気まずく感じたのは私だけじゃないと思う。

「…陛下は寒くなかったの?」

「…寒いと思ったタイミングでお前が余にくっついたのでな」

…どうやらお互い様だったらしい。
というかわかってて距離のことを聞いてきたらしい。随分と意地の悪いことだと思う。

「…だ、暖は取れました?」

「ああ。お前は温かいな」

…誰か気まずいのをどうにかする方法を教えてください。

「起きなくて良いんですか?」

私は気まずさを堪えて尋ねる。けれど陛下は腕に力を込めるだけで何も言ってくれない。すごく暖かいけど恥ずかしい。いつも起きると陛下の腕の中なんだけど、今日はいつもより距離が近い分、恥ずかしさが倍増してる。

「…寒いのは嫌いなんだ…」

私の肩に顔を埋めて、かすれた声でそう呟いた陛下に私は何も言えない。暖をとるためとはいえ、こんな風に抱きしめられるのは心臓に良くない。

「…そっか」

そう返事するので精一杯だった。けど思う。

陛下の背中に腕を回してみたら温かいんだろうな。
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