身代わり王妃の恋愛録
*5th Day*
前日とは打って変わり、今朝はあまりの暑さに目が覚めた。冬だというのにこの暑さは異常だ。
環境に問題が?神様の気まぐれか?火事か?いや、それよりももう活動している使用人がいると考える方が妥当だろう。
けれどもその考えも否定される。あたりはまだ暗いし、まだ陛下の腕は私の肩とお腹にまわっている。当然起きる時間ではなさそうだ。
では何が原因か。
答えはそう難しくなかった。陛下だ。陛下が異様な熱を放っている。
耳にかかる吐息が熱い。私の身体に回されている腕が熱い。静かな部屋に響く陛下の寝息は浅く、速い。陛下の手に触れると、やはり熱い。いつもはひんやりしているくらいなのに。
私はくるりと陛下の方を向くと、腕を伸ばし、陛下と額に触れた。
その額はびっくりするほど熱かった。
「…お、い…」
陛下が私に気づき、ゆっくりと両目を開く。熱のせいか声は掠れ、いつもより色っぽいのだが、それどころではない。
「どうしたの?平気?」
「…寒い…。…寒いのは嫌いだと、言っただろ…」
陛下は自らの腕に力を込め、私の身体を引き寄せる。陛下の胸に顔を埋めることになった私は、布越しでも伝わるその熱さに再びびっくりする。
ごめんね、ミレイ。
心の中で謝り、緊急事態だからと自分の良心に言い訳し、私は陛下の背中に腕を回した。
それでも陛下はまだ寒いらしく、私の肩に顔を埋め、苦しそうに肩で呼吸をしていた。
どうやら陛下、お風邪を召された模様です。
陛下の腕が緩み、少しだけ外が明るくなった頃、私はお城を抜け出して、アリアの元へと走った。陛下を置いてアルバイトなんてできない。だから休ませて欲しいと頼み、謝った。
陛下は国王様だからお医者さんや、使用人の人が陛下のお世話をしてくれるんだと思う。少なくとも風邪で心細い思いをすることはないだろう。
それでも私は、やっぱり陛下を置いていけない。
だから朝の仕込みのために早起きするとわかっているアリアの元に行って謝り、嫁入り道具に持ってきた装飾品を一つパクって換金し、早朝から開いてる市場で果物などを買い込んでお城に戻った。
理由はわからないけど、共同の部屋には冷蔵庫やキッチンも備え付けてある。要するに食材さえあれば部屋を出なくても生活はできるようになっている。
今まで一度たりとも使ったことがなかった冷蔵庫に果物などを詰め込む。そして冷たく濡らしたタオルを絞ると、陛下の額にのせ、ごめんなさいと謝りながら脇に挟み、自ら湯たんぽになるべく寝台へと体を滑り込ませた。
「…冷たい…」
身体に触れている異物に気づいたらしい陛下は先ほどのように私を引き寄せる。
「寒い?」
「…先ほどより、あたたかい」
陛下はまるで熱を逃がさないとでもいうように、私の肩に顔を埋めた。
「もう少ししたら、お医者さん呼んでくるからね」
宮廷医師が駐在する部屋の場所は初日に教えてもらった。最悪そこらへんに控えている使用人の人に頼めば連れて行ってくれるだろう。
やっぱり、あんな寒い日にドレスを作りに行って、しかも長々と外を歩かせたのがいけなかったよね…。
後で謝ろう。
そう心に決め、私は少しでも自分の体温を陛下にあげられるように、再び陛下の背中に腕を回した。