身代わり王妃の恋愛録
「ごめんなさい、ごめんなさい、陛下。私のせいで陛下が風邪引いちゃって」
寝ている陛下に言っても届かない。そんなこと百も承知で私は陛下の手に額をコツンとぶつけると謝罪の言葉を口にした。
「ミレイみたいに大人しければ…私が外に出たがったりしなければ…」
悔いたところで変わらない。宮廷医師は、陛下は風邪だという診断を下した。
ただの風邪だったことを安堵すべきかもしれないけど、40度の熱を出してぐったりしている陛下を見るとやっぱり安堵なんてできない。
すでに氷で冷やしたタオルを額にのせたし、脇にも挟んだ。私自作のりんごのゼリーを食べさせて、薬も飲ませた。
だから私にできることはない。部屋を出た方が良いに決まってる。けれどやっぱり陛下の様子を見ていたくて、陛下の異変はいち早く知りたくて、私は寝台に腰掛けた。
シャーレットから唯一持ってくることができた読みかけの本を手に、陛下を眺める。
朝方は寒かったようだけど、今は暑いと言って、上半身は何も着ていない。
先ほどから気になっているのは、陛下の首元。綺麗なペンダントをしている。雫の形をした石は多分トパーズだ。青く透明なそれは陛下にとてもよく似合っているけど、女性のもののように思える。
別にそれが何だというわけじゃない。私がとやかく言うことでもないし、陛下の女性関係がどうあれ私には関係ない…けど…
「…あれ、どこかで…」
自信のない呟きは静かな空気の中消える。
陛下が寝返りを打ったことで私はハッとする。うるさくしてはいけない。陛下が一分一秒でも早くよくなるように黙ろう。
私は、これ以上うるさくしないよう、読書に集中することにした。