身代わり王妃の恋愛録

目がさめると間近に陛下の麗しすぎる顔があった。頬杖をついて私を睨む陛下もまた優美。

朝よりはずっと顔色が良いし、息も辛そうじゃない。多分少しは良いのだろう。

ところで。私はどうすれば良いの?先ほどからじっと見られてるけど、陛下はうんともすんとも言わない。それこそ目を開けたまま寝てるんじゃないかと疑問に思うくらい。

残念ながら、私の顔は陛下のと違って見ていても面白いものじゃない。特別美人って訳でもないと思うし、陛下のと比べれば月とスッポン、いや、スッポンですらないかもしれない。

けれど私は言いたいことがある。いつも言われているアレだ。

「…人の顔を見つめるのは趣味?」

やばい。嬉しい。口元が緩むのが抑えられない。そんな私を陛下は超絶冷たい目で見ている。ちなみにこの視線は嬉しくない。私はマゾじゃないので。

「……」

「私の顔は陛下のと違って、見ていても特別面白くはないと思うよ?」

「…それは俺の顔が面白いと?」

何だ、この男。無自覚か。お前の顔が面白いわけなかろう!むしろ芸術品ですら霞むほどに美しいわ!

ってつっこみたいけど、また拳骨を食らうのは癪だし。陛下の体調を考えると長話は良くない。

「今のは言葉のあやってやつですぅー!要するに、私の顔は陛下の顔と違って麗しくないって言いたかったの。…それより体調はどう?」

陛下の顔が近くにあったため、私は自分の額を陛下の額にくっつけてみた。

まだ熱いけど朝びっくりした時よりははるかに下がっている。

「良かった。もう少しね」

私がそう言うと陛下は気まずそうに視線を逸らした。ゆっくりと寝台の上に座ると静かに両目を閉じる。

「悪かった」

「何が?」

正直、陛下が謝る意味がわからない。私は一体何を謝られているのだろう。

「あ。もしかして、私の顔を見てたこと?それなら「違う」」

思ったより真面目な顔で陛下は私の考えを否定する。はあ、と溜息を吐き、陛下は私をじっと見た。

「風邪なんて引いたせいで…お前の時間を奪った。…悪かった」

「…何言ってるの?陛下を風邪引かせたのは私でしょ?最近寒かったのに迎えに来させて…空き地で説教させて…おまけに愚痴まで聞かせて…。私の方こそごめんなさい」

私は寝台の上に正座するとそのまま頭を下げた。

「しかもあれでしょ?看病中に寝ちゃったせいでまた陛下は私に蹴られたんだよね?本当にごめんなさい」

お詫びのつもりの看病がまたも迷惑をかけるなんて…。害悪王妃、またも失敗してしまった。

「…蹴られてなどいない。安心しろ」

「そう。…良かった。そうだ、ご飯。何か食べたいものとかある?私が作る」

私がそう言うと、陛下は少しだけ首を傾げた。

「ではあのリンゴのゼリーもお前の手作りか?」

「え?う、うん。…ごめん、美味しくなかった?陛下この前アップルパイを注文してたでしょ?だからリンゴなら食べられると思ったんだけど…」

「…美味かった…。あるならまたそれを食べたい」

少し気まずそうにそう言う陛下がいつもとは違い、なんだか可愛い。

「まだあるから、持ってくる」

「薬も頼む。…悪かった。もう自分で飲める」

陛下の言葉に、今度は私が気まずくなった。頬が熱い。たぶん結構赤い。

何とかゼリーを食べさせることに成功はしたけど、陛下は薬を受け付けなかった。このままでは熱は下がらないと思い、私は口移しで陛下に薬を飲ませた。他意はないし、緊急事態だからと言い訳をして。

まさか陛下に気づかれているとは思わなかった。

「…ごめんなさい。でも、これはどちらの希望でもないただの口移し…。つまりキスではなくて“ただ接触しただけ”だから。ノーカウントだよ!陛下も気にしないでね」

あれが陛下のファーストキスだとは思わないけど。一応罪悪感はある。

だからそう言ったのだけど…

陛下は考え込むように俯いただけで何も言わなかった。それが私には少し怖かった。

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