身代わり王妃の恋愛録
「もしかして、具合悪い?」
陛下の顔をじっと見る。残念ながら、私の身長は157センチとそんなに高くない。それに対して、陛下はたぶん180はある。どうやってもそれなりに上を向かないと顔が見られないのだ。
陛下の顔色はそこまで悪くない…と思う。むしろ血色が良いくらいだと感じるのだけど。
「大丈夫だ。…それより…今日は何もないのか」
「バイトはしばらくお休み。手伝うこととか、用事とかある?なければ部屋で刺繍を予定してます」
似合わないと言われるのを承知で苦笑いを浮かべてそう言った。
けれど陛下の反応はない。先ほどから無言で私を見下ろすばっかりでどこか上の空な気がする。
もしかすると、あまりにもこのドレスが私に似合わなすぎて反応に困っているのかもしれない。いくら陛下でも“似合わない”とは言えないのだろう。
けれどお腹周りをきつく締めるドレスはあまり好きじゃない。そしてミレイの好きなピンクや黄色は私に似合うとは思えないし、どこか気恥ずかしい。消去法で絞って、これが一番可愛かったのに。どうやら似合わないらしい。まあ、仕方ないけれど。似合わないものはどうやっても似合わないし。
「…似合うな」
陛下はぽろりと言葉をこぼした。それは私だけでなく陛下にとっても想定外だったらしく、口元を押さえて気まずそうに顔をそらしている。
「え…」
私の耳は都合良くできてる。でも今の言葉は聞き間違いじゃないと思いたい。だってものすごく嬉しかったから。陛下にそう言ってもらえるのが。
「はぁ…。悪い……見惚れていた」
陛下はため息を吐くと観念したようにちゃんと言ってくれた。
「っ!?」
私はといえば口をパクパクするだけで何も言えない。頬が熱い。きっと相当顔が赤いはずだ。
「お前は青がよく似合う」
その言葉は本当に嬉しい。私が好きなのはピンクでも黄色でもない、空や海の色。似合うと言ってもらえたこの色だ。
口元が緩む。頬は熱い。目からは嬉し涙がこぼれそうなくらい、潤んでる。きっと今の私はひどい顔をしてる。
だから私はあえて口元を引き締めてくるくるとその場で回って見せた。
「馬子にも衣装、でしょ?」
やっとの思いで紡いだ言葉はそんな可愛げない言葉。自分でも呆れるばかりだ。ミレイなら、可愛らしい女の子なら、はにかんで“ありがとう”と言うだろうに。
ほんと、可愛くない。
自己嫌悪しながら足を止め、陛下の顔を見る。けれど陛下は何も言わずただただ口元に手を当てて私を見ていた。
「陛下…?」
固まってしまった陛下を軽く揺する。けれど反応はなく、無表情のまま私を見下ろしている。
そんな陛下の瞳はどこか悲しさが滲んでいたような気がした。