身代わり王妃の恋愛録
「ごめんなさい」

これは12回目の謝罪。もうかれこれ30分は怒られている。その間エルは一切口を挟まず私を嬉しそうに見ている。

すでに髪に塗った染料は落とされ、レクトも外した。

完全にいつもの私スタイルで陛下の執務室で正座させられている。

まだ買い物終わってないのに…とか断じて思ってない。きちんと反省してますとも、ええ。

「で、ソラはどうした?」

「…途中まで一緒にいたんですよ?途中で別れただけで…」

「なんのためにつけてると思っている?万一に備えてだろう。いくらお前が剣や体術に長けていても限界があるだろう」

「返す言葉もございません。本当にごめんなさい…」

「…はぁ…。……もう良い。明日は1日お前を縛ることになるしな…」

あらかた言いたいことを言い終えたらしい陛下は小さく息を吐く。

「…頼むから危ないことだけはやめろ」

「…はい。…本当にごめんなさい、それと心配してくれてありがとう」

「…心配…か…」

陛下は自嘲気味にそう呟くと少し席を外すと言って部屋を出て行った。その瞬間、まるで自分の出番とでも言うようにエルが立ち上がる。

「まさかお前がミレイ王女の妹だったとはな。よりにもよってお前が王女とは!俺は王女っていうのはもっと品があって大人しいもんだと思っていたがな」

エルは偉そうに腕を組んで私を見下ろす。ムカつく。同い年だってのに!てかその偏見に私を当てはめるな!いや、そもそも私を王族っていうくくりに含めんな!

私はガッと立ち上がってエルを睨んだ。

「余計なお世話!私は王族でも王女でもないし!私だってセレストの王家の人は綺麗で静かで上品な人しかいないと思ってたしっ!よりにもよってあんたが陛下の弟だなんて!なんでこーなっちゃったんだろうね!?」

「くっそ、かわいくねえ!」

「それはお互い様でしょ!アホエル!」

「はあ!?なんだと!バカフウ!」

「そんなこと言うから、陛下の弟とは思えないって私に言われるんだよっ!」

そう言って私は先ほどまで陛下が立っていた場所を見る。

30分もお説教されたのに私が不貞腐れていないのはその内容がほぼ私の身を案じるものだったからだ。

私という1人の人間をこうして心配してくれる人は一体どれだけいるだろう。嫌われ役になることを覚悟でああして怒ってくれる人はどれだけいるだろう。

ああ、ダメだ。分かってはいるのに陛下を想う気持ちはどんどん強くなる。

言ったら…ダメよ。

私は自分に言い聞かせつつ、静かに目を閉じた。陛下に対する熱が、少しでも収まることを願ってー。
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