身代わり王妃の恋愛録

ーちょっとアリアのところに行ってくるね

そんな書き置きを残し、私はアリアのところにやってきた。時刻は午前0時過ぎ。カイに頼んで送ってもらったし、陛下との約束はきちんと守った。

アリアのところへやってきた理由はキッチンを貸してもらうため。共同の部屋にはキッチンがあるけれどそのキッチンを使うとなると陛下に事情を説明しなくてはいけなくなってしまう。

だからこうしてアリアのところまで来た。
サプライズということでこんな風に夜遅くなってしまったけど、明日のお祭りで、アリアも露店でお菓子を売り出すことを計画していたらしいから、問題ないと承諾されたのだ。

と、いうわけでお手伝いという形で私も陛下へのサプライズの準備をしている。

さすがに今ケーキは作れないけど、下準備とか、焼き菓子とか、そういうのは用意しておくに越したことはないから、アリアにキッチンを貸しても良いと言われた時は嬉しかった。

タイムリミットは午前4時。それまでに帰らないと陛下にばれて全てがおじゃんになる。

今朝、陛下に怒られるリスクを冒してまで(実際に怒られたし)買ってきた食材をあらかた使い、セレストの郷土料理と、シャーレットの郷土料理の準備をする。

フルコースでも良かったけどどうせならお祭り気分を味わってもらいたかった(それと私の母国の味を知ってもらいたかったのもある)ので、こういうメニューになった。
明日、最後の仕上げを1時間くらいでできれば陛下へのサプライズが完成する。その時間が取れることを懸命に祈っているのだけど。

陛下は驚いてくれるかな…

そんな期待と不安を胸に、全ての作業を終えたのはここにきて2時間が経過した頃…午前2時過ぎ。さすがに疲れた私はアリアに淹れてもらったハーブティーを頂きつつ、船を漕いでいたのだと思う。

だから気付かなかったのだ。甘い匂い漂う部屋に、それとは不釣り合いな人が入ってきたことなんて。

ー…うちの愚か者が迷惑をかけて申し訳ない

ーいいえ。それよりもどうか怒らないであげてください…。一生懸命なだけなんです

そんな声が遠くで聞こえる。

誰かが見たこともないような優しい視線を私に向けているような気もする。けれど眠い。

もうすでに瞼は石のように重く、私の意志では動かない。

ー…分かっている。お前が一生懸命なのも…その理由も…。…そして、私ではお前を救えないことも…それでも………。

まるで懺悔のような心底寂しそうな声と、それとは裏腹にどこまでも優しい、私の頭を上下する手。

そのどちらもがとても心地よくて、私はいとも簡単に意識を手放してしまったのだ。
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